ゴミ置き場の怪物

童話

 「ダン!」
ゴミの山に、またひとつゴミが置かれた。
 いつからだろう。この場所がゴミ置き場になったのは・・・。
 壊れたテレビ、電子レンジ、車のタイヤに、さびた自転車・・・。
 むぞうさに捨てられたゴミ達は、もう置いてもらえる家もなく、
雨に濡れても、風に吹かれても、無言でその場所をじっと動かずに耐えている。
 元気に働けていた頃は、家族から重宝され動いていることが当たり前だった。
 しかし、ほんの一部体の調子が悪くなったら、たちまち、ゴミ置き場行きが決定
する。修理に出すと高いからって、すぐに次の奴を買ってくるんだ。今の時代、ど
この家庭も同じだった。
 おじいさんの、そのまたおじいさんの世代から譲り受けた物を修理しながら大事
に使うという習慣は、いつからなくなっていったんだろう?

 嵐のような激しい雨が降るある夜のこと、
捨てられたゴミ達が合体ロボットのように次々と連結していった。そして、とてつ
もなく巨大なロボットが誕生した。
 暗闇の中で、ピカッと赤い目を光らせると両手のこぶしを叩き合わせ、仁王立ち
しながら、空に向けた両手を思い切り伸ばした。
「うぉ~!」
 と、低い声で叫んだ。
 ゴミロボットの叫び声は、みんなが寝静まった暗闇の中、地をはう波のように響
いていった。
 そしてゴミロボットは、何事も無かったかのように再び元の場所に座り込んだ。
 そこへ、「スーッ。」と、一台の車がゴミ置き場に停まった。若い男が車から降
りると、車のトランクから壊れたオーディオを運び出して、ゴミ置き場に置いた。
 男がゴミ置き場を立ち去ろうとした時、突然ゴミロボットが動き出した。
 ゴミロボットの体全体が光に包まれ、今捨てられたばかりのオーディオが宙に浮
いた。そして、オーディオはゴミロボットの体に、スゥーッと溶け込んだ。ゴミロ
ボットの体は前より大きくなった。
 ゴミロボットが、男に向かって胸を叩いていかくすると驚いた男は、
「なんだ、このばけもの~!」
 と叫んで逃げるようにその場を立ち去った。
 ゴミロボットは、ゴミ置き場の番人となり、深夜こっそりと、不法にゴミを捨て
に来る者を見張るようになった。
 ゴミ置き場のロボットの話は、次第に口伝えに広まっていった。

「僕も見てみたいな。」
 けんじは、大のロボット好きな少年だった。
「ゴミロボットって、いったいどれくらいの大きさなのかな?」
「おいおい、もしロボットにおそわれたら、どうするんだ?危ないから、近づいち
ゃダメだぞ。」
 けんじのお父さんは、ゴミロボットを危険扱いした。けんじは、口をとんがらせ
た。ゴミロボットを見たくてたまらなかった。
 次の日、学校で仲間にゴミロボットの話をした。
「ねぇ、ねぇ。ゴミロボットの話、知ってる?」
「ああ、聞いたことあるよ。」
「今度見に行こうよ!」
「でも、ゴミロボットって夜、動くんでしょ?」
「だから、大人たちに分からないように、こっそり家を出れば、ばれないよ。」
「でも、もし見つかったら、すごく怒られるよ。」
「ゴミロボットを、見たくないの?」
「そりゃあ、見たいけど・・・。」
「それじゃあ、今度の土曜日の夜8時に、ゴミ置き場に集合しよう。」
 けんじは、なかば強引に仲間に集合時間を伝えた。
 
 土曜日の夜、けんじは、ゴミ置き場に一番乗りで着いた。仲間たちも少し遅れ
て到着した。みんな、家族がテレビを見ているすきに、目を盗んでこっそり家を
出てきたようだ。
「お父さんに、ばれたらどうしよう!」
 みんな、家族にこっそり家を出ていることがばれた時のことを考えて怖がってい
る。けんじもお父さんが怖かった。
 でも、けんじと同じで、ゴミロボットを見たいという気持ちが強かった。
 とりあえず、ゴミ置き場の隅に隠れて様子をうかがうことにした。
 しばらくすると、一台の車が停まった。車の中から、中年の男が出てきて古いテ
レビをゴミ置き場に、「ドスン!」と無造作に置いた。
 すると、ゴミロボットの目が赤く光った。
「ガシッ、ガシッ、ガシッ。」
 と音をたてながら、古いテレビのほうに近づいてきた。
 次の瞬間、ゴミロボットの体全体が光に包まれ、テレビが宙に浮いた。ゴミロボ
ットの体にテレビがスゥーッと、溶け込んだ。ゴミロボットの体は前より大きくな
った。
「ウォ~!」
 と叫び、男に向かって威嚇するゴミロボットの声に驚いた男は、逃げて行った。
「すっげぇ~!」
「あれがゴミロボットかぁ。」
 けんじたちは、あっけにとられていた。
 しばらく沈黙が続いたあとに全員、放心状態のまま、かわるがわるしゃべりだした。
「ゴミロボットが光って・・・」
「テレビが宙に浮いて・・・」
「テレビが消えて、ゴミロボットが大きくなった。」
 再び、沈黙が続いた。
 仲間のひとりがしゃべりだした。
「ゴミロボットがテレビを自分の体に取り込んだんだ。」
「ってことは?」
「ゴミをすてるのをやめさせないと、ゴミロボットは大きくなり続けるんじゃないかな。」
「このままじゃ、大変なことに!」
「どうしたら、いいんだろう・・・」
 けんじたちは、解決策を考えることにした。
 大人たちの間でも、ゴミロボットの話は有名になっていた。夜中に突然、
「ウォ~!」
 と叫ぶ、ゴミロボットの声がうるさくて眠れない夜がたびたびあるからだ。
 近いうちに、町内会で会合を開いて話し合うことになった。
 会合があった日に、家に帰ったお父さんに、
「ゴミロボット、どうなっちゃうの?」
けんじは、おそるおそる聞いてみた。
「今度の土曜日にみんなでゴミロボットを、退治することになったよ。」
 お父さんがけんじに伝えると、
「えっ、退治されちゃうの?ゴミロボット!」
「しかたないだろう。ゴミロボットの声は、りっぱな騒音だ。みんな、迷惑している
んだ。」
「でも嫌だよぉ、ゴミロボットが壊されちゃうのは・・・。」
 大人たちが決めたことに、納得がいかないけんじだったが、夜中に聞こえるゴミロ
ボットの叫び声が、うるさいと言われてしまっては、どうしたらいいのかわからなか
った。
 次の日けんじは、もう一度仲間にゴミロボットのことを相談した。
「今度の土曜日に、ゴミロボットを退治するんだって。僕たちも見に行かないか?」
「でも、大人たちがいるのにどうするんだ?」
「わからないけど、ほっとけないんだ。」
「そうだな。みんなで行こう!」
 けんじたちは、再びゴミ置き場に行くことにした。
 ゴミ置き場に来た大人たちは、それぞれにほうきやバットなどを持って来ていた。
 町内会長の指示のもとに、大人たちはゴミロボットに近づいていく。
 ゴミロボットはだんだんと、自分に近づてくる大人たちに、赤く目を光らせな
がら、とまどっていた。
「おとなしくしろ、怪物め!」
「ウォ~!」
 ゴミロボットも、負けじと腕を振り上げて、叫び声を上げた。
「負けてたまるか!」
 ひとりの大人が、勇気を出してゴミロボットにおそいかかったが、ロボットの怪
力にはかなわない。ゴミロボットは、振り上げたバットをつかんで放り投げた。
 大人たちは、ひるみながらも次から次へとゴミロボットにおそいかかっていく。
 負けじと、ゴミロボットも両手を振り上げて、大人たちをいかくする。
 そんな光景を見ていたけんじは、たまらなくなって飛び出した。
「もう、やめてよ!ゴミロボットは、悪くないよ。悪いのは、ここに勝手にゴミを
捨てた大人たちだろ!」
 大人たちは、いっせいにけんじを見ておどろいた。
「けんじ、なんでここにいるんだ!」
びっくりしているけんじのお父さんや、ほかの大人たちに向かって、けんじの仲間
たちも大声で叫んだ。
「ゴミロボットは、勝手にゴミを捨てる悪い大人たちを監視していたんだ。」
「僕たちは、見たんだ!夜中にそうっと家を出てここに来たんだ。」
「ゴミロボットは、人間をおそっていたんじゃない。勝手にゴミを捨てる悪い大人
たちを追い払っていたんだ。ゴミロボットにひどいことをしないでほしい!」
 けんじのお父さんやほかの大人たちは、なぜ子どもたちがここにいるのかわから
なかったが、子どもたちからゴミロボットが悪い奴ではないことを聞かされた。
 子どもたちの必死な説明に、大人たちもゴミロボットのことを誤解していたこと
がわかり、いつのまにか振り上げた手を、下ろしていた。
「なんてことだ、そうだったのか・・・。」
 大人たちは、さっきまでの勢いはなく、みんなでうつむいた。
 とその瞬間、ゴミロボットの目の赤い光が消えた。あっというまにゴミロボット
の体がバラバラになっていった。手が取れ、足が取れ、胴体、最後に頭・・・。ま
た、ただのゴミに戻った。
 あたりには、壊れたテレビ、冷蔵庫に、掃除機などが散乱していた。
「これが、怪物の正体・・・。」
 大人たちのうちの誰かが、力なくつぶやいた。
「わかったよ、ゴミロボット。自分のしたことを反省してほしかったんだね。」
 けんじが、ぽつりと言った。
「ロボットに監視してもらっていたとはな。」
 大人たちも、むなしい気持ちでいっぱいだった。
これまでに、むぞうさに捨てられてきたゴミの山を見つめていた。
 数日後、ゴミ置き場に大きなトラックが停まり、次々と粗大ごみたちが積まれて
いった。町内会が手配した回収業者が片付けにきたのだ。
 ゴミロボットがいた場所は、整備され子どもたちがいつでも遊ぶことができる広
場となった。
 子どもたちは、いつしかこの広場を『ロボット広場』と呼ぶようになった。
 楽しそうに遊ぶ子どもたちの声が、今日も聞こえている。

  おしまい




 



 








 












 


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